構成の解説
上卦(Upper trigram)
「☶ 艮(ごん:Gen)」="Bound":山・障壁・行き止まり
下卦(Lower trigram)
「☵ 坎(かん:Kan)」="Gorge":水・雨・雲・泉・危険・落とし穴
卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)
「あなたの願いは実現する。私が愚かな幼児を必要とするのではなく、愚かな幼児が私を必要として道を尋ねにくる。最初にあなたが尋ねることには答えよう。同じことを何度も尋ねるなら答えない。同じことを何度も占おうとするのは、占いの神聖さを汚す行為だから、答えを与えない。正しい態度で道を求めるならば、運は開ける。」
<䷃ 蒙(もう="Enveloping")>は、愚かなるもの。啓蒙する。教え導く。
上卦(Upper trigram)が山を意味する「☶ 艮(ごん:Gen)」="Bound"、下卦(Lower trigram)が落とし穴をあらわす「☵ 坎(かん:Kan)」="Gorge"です。
下は穴があり、上は行き止まりの山、希望が見えない暗黒のイメージがあります。
暗黒のイメージは、愚かな幼児、見識のない愚者を連想させます。
実は<䷃ 蒙(もう="Enveloping")>の主役は92の「陽」、92は中庸を意味する二番目の位置にいます。
92と対応関係にある65は「陰」、65は暗君です。
有能な家臣である92が、暗君である65を教え導きます。
92は賢者。
ここに、対応関係にある65の主君がやってきて、政治の道を問います。
92が65の君主に言った言葉が、この卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)です。
「私はあなたが尋ねることには、最初は答えるが、何度も同じことを尋ねるならば答えない。」
これは、誰かになにか尋ねる場合、あなたに必要な態度です。
何度も同じことを尋ねようとする人は、相手を信じていません。
自分を信じない相手には答えない、と易経は言います。
易経占いをする場合、同じことを何度も占うと、この卦(Hexagram)が出ます。
不思議ですが、本当にそうなります。
<䷃ 蒙(もう="Enveloping")>は教育を意味する卦(Hexagram)です。
適切な教育は物事を進歩させます。
なので、「あなたの願いが実現する」という意味が出て来ます。
あなたが教えてもらう立場にあるならば、真剣に人の話を聞くということは大切です。
なにかを教わるということの根本的な態度をこの卦(Hexagram)は論じています。
◇ひと言アドバイス(象)
気概をもって行動し、徳を養おう
山の下に泉が湧いているのが<䷃ 蒙(もう="Enveloping")>、泉は山を越え谷に流れ込み、行き行きて最後は大河となり海に注ぎます。
賢者は、多くの苦難を乗り越えながら智慧を磨き、実力を身に着けて大成するものです。
困難を乗り越えて行く気概をもって行動し、徳を養っていくことが<䷃ 蒙(もう="Enveloping")>に示される人生訓です。
爻辞(こうじ=Explanation of the Lines)
◇1st 陰 初6(First6)
「彼は最も蒙昧である。あなたは彼の愚かさを開いてやる必要がある。刑罰を使ってまずは間違ったことをした彼に罰を与えるのがよろしい。彼には罰として足枷をはめなさい。その上で彼が改心したら、彼の足にはめた足枷をといてやりなさい。だが、このやり方はずっと続ければやがては彼は反抗する。やり続けるわけにはいかない。」
(※一番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)
初6(First6)は「陰」。
彼は怠惰です。
一番目の位置は「陽」が入るべき場所。
初6(First6)は本来は向上心を持たねばなりませんが、彼は怠惰な若者なので、あなたは彼を教育せねばなりません。
愚かな子供に物事を教えるには、罰を与えることから始めます。
彼が間違ったことをしたら、あなたは足かせをはめて罰します。
あなたは彼の身体に善悪を教え込むのです。
彼が懲りてわかってきたら、足かせは外してやりなさい。
刑罰は法の基本です。
罰則がないと法はちゃんと機能しないものです。
ただし、このやり方はずっと続ければ、秦の始皇帝がそうであったように、反発を招いて逆に収拾がつかなくもなりますから、バランスが必要です。
◇2nd 陽 92
「彼は蒙昧な人間を抱擁し受け入れる。状況は吉となる。妻を受け入れるにも吉である。家庭においては子が弱き父に代わり家を盛り立てる。」
(※二番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。)
92が<䷃ 蒙(もう="Enveloping")>の主役、教え導くものです。
92が教え導く対象は、この卦(Hexagram)にあるすべての「陰」です。
92は「陽」です。彼は積極的に教育します。彼がいる場所は二番目、中庸を意味する場所です。彼の教え方は厳しいですが、愛に満ちています。
いい結果となるでしょう。
また、92は対応関係にある65の主君を教え導きます。
あるいは65は妻である場合もあります。
一般的に妻は感情的で時に愚かなものですのが、62は包容力があります。愛に満ちた人。彼はいい家庭を作ることができるでしょう。
65が父親である場合もあります。
この場合は62は子で、父に代わって家を盛り立ててよくしていきます。
全体として、この爻(Line)が出た場合は、教育においていい結果が出ます。
◇3rd 陰 63
「あなたは妻を迎えてはならない。その女は贈り物をくれる男についていくような女で、いいことはなにもないであろう。慎みがない女である。」
(※三番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)
63は「陰」、彼女がいる場所は本来「陽」が入るべき場所、なので彼女はミスマッチしています。
63は慎みがなく、冷静に行動せず、金目の物をくれる男にすぐに尻を振る女のイメージです。
こんな女を妻にしたら、あなたにいいことはなにもないでしょう。
女に限らず、商談などでもこの判断は当てはまります。
こうした相手とは、関係しないに限ります。
◇4th 陰 64
「彼は愚かさに苦しむ。恥ずべきことである。」
(※四番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。)
64もまた「陰」、愚か者です。
64は対応関係にある初6(First6)と仲良くし、厳しいことを言ってくれる92を避けます。
当然、彼は悪い結果となり、困窮するでしょう。
が、それは彼の自業自得です。
この爻(Line)が出たら、生き方を考え直しましょう。
◇5th 陰 65
「彼は愚か者ではあるが、純粋であり、謙虚に人に道を訊ね助言を聞き入れる。吉である。」
(※五番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。)
65は「陰」で愚か者ではありますが、上卦(Upper trigram)の「中」の位置にいて中庸です。
彼には人の話を聞き入れる徳があります。
彼は対応関係にある家臣、92の助言を聞き入れ、生き方を見直し、多くのことを学びます。
こういう人は、今は愚かであっても、やがては道を知り大成することでしょう。
吉であることはいうまでもありません。
◇6th 陽 上9(Upper9)
「彼は愚かものを討伐する。しかし彼が越境して相手に攻撃をかけるのはよくない。愚か者に攻撃させて、彼が防衛するならば恩恵を受ける。」
(※六番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。属性がない場所。)
上9(Upper9)は<䷃ 蒙(もう="Enveloping")>の終極点にいます。
上9(Upper9)は「陽」で、剛毅です。
ここに至って愚か者の63が攻撃してきます。
上9(Upper9)は63を討伐します。
しかし、六番目の位置は「陰」が入るべき場所、彼は本来はおとなしくすべきです。討伐をやりすぎては恨みを買い、後先が面倒なことになります。彼はあくまでも防衛に徹して、愚か者のみを討伐するべきです。
あなたは「陽」、もって生まれた美徳を大事にしましょう。
<䷃ 蒙(もう="Enveloping")>は教育に関する卦(Hexagram)です。
教育は、教える者が教訓や示唆を与え、教えられる者が教えを受け取ることです。時に相手をこらしめるのは許されますが、抹殺することは教育ではありません。
これは教育の根本的な真理です。
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