易経占いカウンセリング 1:転落して破滅か?それとも王になる?二つに分かれる未来の判断

私が今回から書き始めるシリーズは、実際の易経占いを通じて、人間世界を考えることを趣旨とする。

易経は占いの書であると同時に、哲学書でもある。

易経の哲学は、学術論文だけでは理解できない。

実際の易経占いを通して考えて、初めて易経は理解できるのである。

易経占いカウンセリング

易経占いに限らず、占いは主観的なものだ。

どう解釈するかは、占う人の状況や、心の状況によって変わってくる。

基本的なセオリーはそれぞれの占いに存在している。

占い師の役目は、占いの結果を正しく解釈することだ。

しかし、占い師が占いの結果を正しく解釈するとしても、クライアント側が最終的にどう行動するかが最も重要だ。

占いは、クライアントの理想と、実際の見通しのギャップを埋めることが最も重要である。
占いは、クライアントの理想と、実際の見通しのギャップを埋めることが最も重要である。

特に、易経占いのように象徴性が高い占いについては、クライアントの行動によって未来は変わってくる。

「未来は確定されたものではありません。あなたの行動によって変わっていくものなのです」

と私が言っても、なかなかクライアントにわかってもらえないことが多い。

だが、占い師の役割は、クライアント本人が決断することを助けるだけである。

常識にとらわれてはいけない。

善悪にとらわれてはいけない。

特に、結果がクライアントの行動によって変わってくるような占い結果が出る場合、それをクライアントに理解してもらうことが最も重要になってくる。

この企画では、私は実際の相談を紹介しながら、みなさんと一緒に易経占いの本質を考える。

今回の実例

今回の例は、数年前、実際に私が関わったものだ。

次のようなクライアントからの相談内容だ。

逮捕された息子を救いたいと願う母親。しかし、状況は・・・
逮捕された息子を救いたいと願う母親。しかし、状況は・・・

「息子が、警察に逮捕されました。

私の息子はまだ18歳で、現在少年鑑別所にいます。

あの子は、高校で問題を起こし、通っていた高校を退学となりました。

その後、近くの不良たちと付き合うようになって、家にも帰らない日が多くなりました。

ある友達の親の車を、仲間たち数名で乗り回していたようなのですが、そうするうちに事故を起こしたようなのです。

警察は、私の息子が運転免許もないのに車を運転し、事故を起こしたと言っています。

私の息子と仲間たちは、車は盗まれたもので、自分たちは運転していないし知らない、と警察に言っていました。

私の息子が自分はやっていないと言うので、私は彼の言葉を信じています。

あの子は、そんな悪いことをするはずがありません。

しかし、その後、仲間が警察に自白を始めました。

うちの息子が無免許で運転していたという証言が出て、うちの息子は警察に逮捕されてしまいました。

が、息子は今も容疑を否認しています。

そのため、起訴されてしまい、裁判が行われます。

なんとか、私の息子を救いたいのです。

あの子が、そんな悪いことをするはずがありません。

私は彼を信じています。

どうしたらよいでしょうか?」

この女性は、切実である。

夫が家出し、彼女は一人で子供たちを育ててきた。

彼女の息子はスポーツ推薦で高校に進学した。

しかし、問題を起こして放校処分となってから、彼は自暴自棄になり、悪い仲間たちと付き合うようになった。

状況としては、彼女の息子は仲間たちと無免許運転でドライブに出かけた。

遊び半分で彼が車を無免許で運転した。

そして事故を起こした。

やばいと思った彼らは、この事故を隠そうとした。

自分たちはなにも知らない、運転などしていない、車は誰かに盗まれたのだ、と彼らは主張した。

仲間たちはすべて彼を裏切った。彼はかたくなに容疑を否定する。
仲間たちはすべて彼を裏切った。彼はかたくなに容疑を否定する。

しかし、仲間たちは警察の追求に対し、次々と降伏した。

すでに彼の仲間たちの多くが真実を話してしまっている。

にもかかわらず、彼女の息子だけは今も容疑を否認している。

通常、こうした事件はよくある若者のいたずらの類だ。

クライアントの息子が事実を認めるならば、起訴されることはない。

しかし、息子は容疑を否認し続けている。

こうなってくると、警察も起訴せざるを得ない。

そして彼は起訴されてしまったので裁判を受けることになる。

裁判の結果次第では少年刑務所で懲役となる。

しかし、私に相談してきたこの母親は、息子の無罪を信じたい。

息子が無実だとは、彼女も内心では思っていないだろう。

しかし、息子が無実だと信じたいのは、彼女としては当然だ。

易経占いの結果

彼女に、易経占いをする。

硬貨三枚を落とした結果は、次のようなものだ。

(易経占いの方法は、「基本編2>易経占い方ガイド!」を見てほしい)

NO.23 剥(はく="Stripping"):剥落、状況の崩落的な危機
NO.23 剥(はく="Stripping"):剥落、状況の崩落的な危機

NO.23 剥("Stripping")

▢ 6th→変爻(Change!)
⚋ 5th
⚋ 4th
⚋ 3rd
⚋ 2nd
⚋ 1st

まずは、全体的な状況を「卦辞(Explanation of the Hexagram)」から考えてみる。

この卦(Hexagram)は、典型的な「消息卦(Transition Hexagram)」である。

下から陰(Yin)が増えていって、今や陽(Yang)は一つ残るだけとなった。

「消息卦(Transition Hexagram)」では、陰(Yin)は悪人とか、裏切者を意味する。

悪や、裏切りに取り囲まれて、正義や信念が今や消えようとしている。

「卦辞(Explanation of the Hexagram)」にはこうある。

「今や悪の勢力は世を覆いつくし、残る正義も消えかけようとしている。なにか行動に出てはならない。おとなしくすべき時である。」

そして、今回は、6thが変爻(Change)である。

かなり具体的な易経の判断が6番目の爻(Line)に出ている。

6番目の「爻辞(Explanation of the Lines)」は、次のようになる。

「屋根の上に、大きな果実が食べられず木に残っている。彼が賢者であれば、下に集まった五人の邪悪たちから推薦されて王となるだろう。彼が邪悪であれば、彼は建物の屋根といっしょに崩落するだろう。」


解釈

みなさんは、今回のケースをどのように解釈するだろうか?

ちなみに、この母親にどう思うか尋ねたところ、次のように言う。

「息子は、悪い仲間に利用されているんでしょうか?

そして、最後に残った果実ってのは私ですか?

母親が最後の救いという意味でしょうか?」

彼女の気持ちは理解できる。

が、易経が伝えている情報は全然違う。

占い師である私は、まずはこの母親の話をよく聞いた上で、客観的に易経占いの結果を観察する必要がある。

まずは、全体の状況であるが、彼女の息子さんが六番目の位置にいる、最後に残った一つの陽(Yang)である。

下にある5個の陰(Yins)は、彼の仲間たちである。

おそらく、彼とその仲間たちは、事件をごまかそうと約束した。

仲間たちも彼のことをかばおうとした。

だが、警察の取り調べが進むにつれて、仲間たちは次々と自白した。

ここでの陰(Yin)は、裏切りを意味する。

起訴された息子さんだけが、仲間たちとの約束を守り、自分たちは無関係だと主張している。

それが現在の全体的な状況である。

つまり、

・クライアントの息子さんは、仲間たちと事件をごまかそうと話し合った。

・だが、仲間たちは不本意ながら裏切った。

・今は息子さんだけが孤立し、自分たちは無関係だと主張しているので、起訴されている。

さらに、今回はより具体的な状況が、変爻(Change)の箇所に示されている。

ここに書かれている意味は、現在は二つの可能性がある。

破滅するか、あるいは仲間たちにリーダーとして認められるか、である。

ここでは、「ひと言アドバイス(象)」が一つのポイントとなる。

「ひと言アドバイス(象)」には、つぎのようにある。

所有を贈与しなさい

易経は言います。

すべてがマイナスの力に負けて剥落している危機の状況では、剥がれるついでで上の所有を下の者に分け与えなさい、と。

支配者は下の者たちの支持がなければ成り立ちません。

下の者たちがすべて離反しているのが今の状況。

所有を下の者たちに奪われるのではなく、むしろ積極的に贈与してしまいなさい。

そうすれば、あなたは奪われずに危機を脱出できます。

みなさんは、意味が分かるだろうか?

クライアントの息子さんは、すでに起訴されて刑事裁判となっている。

仲間たちの自白がすでにあるので、この息子が今までのような主張をしても、罪が重くなるばかりである。

つまり、

・仲間たちはすべて彼を裏切っている。仲間たちを意味するのが5つある陰(Yins)。

・仲間たちの自白があるので、クライアントの息子が無実を主張しても、勝ち目はない。

・クライアントの息子さんが、無罪を主張すれば、重罪となり破滅する。

ということである。

だが、彼には道がまだ残されている。

それは、容疑を認めることだ。

そして、事故を起こしたときに車を運転していたことも認める。

罪に問われるのを恐れて嘘をついていた、と自白する。

そうすることは、彼の仲間と同じく、警察の追求に屈することだ。

それはつまり、最後に残っている陽(Yang)が、降伏して陰(Yin)に変化することを意味する。

そうすることで、罪は大幅に軽くなる。

この場合、最後に残る陽(Yang)は、通常は陰(Yin)が入るべき六番目の位置にいる。

これは道理として従順になるべき人が、従順ではない状況を意味する。

もし彼が警察に屈服して、罪を認めるならば、・・・全体の状況は大きく変わる。

6thが陰(Yin)に変化すれば、卦(Hexagram)全体が、坤("Field")に変わる。

坤("Field")は従順さが福をもたらすことを意味するめでたい卦(Hexagram)である。

果実は、自分から落ちれば王になる

そもそも少年犯罪においては、この程度の事件はよくあることだ。

こうしたケースでは、最初から罪を認めて、反省する姿勢があれば、逮捕されるはずはなかった。つまり、

・容疑を彼が認めたならば、罪は大幅に減刑される。

しかし、そうすることで彼が事故の主犯であることが確定する。

仲間たちは逮捕されていない。

彼らは運転をしていなかったからだ。

もっとも、他の子も運転はしていたかもしれない。

たまたまクライアントの息子が運転していて事故を起こした。

そういう意味では彼の仲間たちも本来は同罪だ。

しかし、彼が起訴内容を認めることで、彼だけが罪人になる。

他の子は罪は問われなくなる。

これはつまり、

・クライアントの息子さんは、仲間の罪を被る。

ことになる。

これは、「ひと言アドバイス(象)」にある、

所有を贈与しなさい

に従うことだ。

もし、罪を認めれば、おそらくだがこの程度の罪なので、彼はすぐに釈放される。

すでに鑑別所に入所させられている。

60日以上だ。

拘留期間との相殺扱いになるので、罪を認めれば、釈放される。

果実は、自分から落ちるならば、邪悪な仲間から担ぎあげられて王となる。

彼は仲間たちの罪をまとめて引き受ける。

仲間たちは彼に感謝するだろうし、彼に申し訳ないと思うだろう。

仲間たちは、生涯、彼に借りができる。

仲間たちは彼を尊敬することとなる。

これが、6番目の「爻辞(Explanation of the Lines)」にある、次の言葉に該当する。

屋根の上に、大きな果実が食べられず木に残っている。彼が賢者であれば、下に集まった五人の邪悪たちから推薦されて王となるだろう。

つまり、彼が罪を認めれば、彼は仲間たちから王と認められる。

だが、そうでない場合は、

彼が邪悪であれば、彼は建物の屋根といっしょに崩落するだろう。

彼が罪を認めなければ、事態はさらに悪化し、母親も巻き込み、彼自身の人生にも悪影響を及ぼす。

二択である。

だが、人間界には、必然性というものがある。

自然な流れとして、クライアントの息子さんは、罪を認めることになるし、それ以外の選択肢は取れないだろう。

占いの結果を伝える

今回のようなケースでは、クライアントが、現実を受け入れることが重要なのだ。

彼女は感情として息子を信じたい。

しかし、その主張を続ければ、息子さんは少年刑務所で1年以上過ごさねばなるまい。

母親の気持ちもわかる。

しかし、ここでは、彼女の息子さんが今後生きていく上では、刑務所に入るよりも罪を認めたほうがいい。

というより、罪を認めるしか彼には道はないだろう。

易経占いでは、未来は二つの可能性を示す。しかし、道理としては、道は一つしかないだろう・・・
易経占いでは、未来は二つの可能性を示す。しかし、道理としては、道は一つしかないだろう・・・

母親の心情も汲み取ったうえで、あなたならば、どう伝えるだろうか。

私は、次のようにクライアントに伝えた。

「まず、母親としてのあなたの立場とお気持ちをお察しいたします。

息子さんは、やっていないと今も言っているのですね。

お母さんが息子さんを信じたい気持ちはよくわかります。

まずは客観的に見ていきましょう。

今回のケースでは、あなたの息子さんの仲間たちは、息子さんをかばうために、車は盗まれたもので、自分たちは事故とは無関係だと主張したのだと思われます。

ですが、みんなまだ子供です。

警察の取り調べを受けて、あなたの息子さんの仲間たちがすべて真実を話してしまいました。

もっともあなたの息子さんだけが悪いわけではありません。

たまたま、事故を起こしたのがあなたの息子さんだった、というだけです。

他の子たちにも責任はあります。

でも事故は事故ですし、無免許運転は犯罪です。

警察は、これを事件として扱っています。

息子さんが運転していたことは、犯罪ではありますが、それ自体は大した罪ではありません。

むしろ、これだけ証言が出ているのに、あなたの息子さんだけが否認していることが問題となっています。

占いの結果は、もしこのままあなたの息子さんが容疑を否認し続けるならば、破滅するかもしれない、と出ています。

しかし、もう一つの可能性も出ていて、息子さんが容疑を認めるならば、その場合は、仲間たちにも感謝され、仲間たちは一生息子さんに感謝することになるでしょう。

現実的に考えましょう。

息子さん自身に罪を認めるようにあなたから伝える方が良いと思います。

このまま、あなたの息子さんだけが否認を続けても、裁判が長引くだけで、彼自身の人生にも悪い影響が出るだけです」

これに対して、クライアントは予想通り、彼女の息子に罪を認めさせるということに、大きな抵抗を示した。

彼女には彼女の言い分があった。

他の子は罪を問われないのに、どうして彼女の息子だけが罪人になるのか、どうしても納得がいかないというのである。

彼女との話し合いは、非常に時間を要した。

道理として、そうすべきである、それ以外に方法はないだろう、と言われても、人間というのはなかなか現実と向き合うことは困難である。

人間世界の困難の多くは、現実と自分の理想とのギャップから発生する。

現実と向き合うことがたやすければ、世界ではトラブルは起こらないだろう。

結末

その後、この件はどうなったか。

彼女は、息子と面談して、いろいろと話をしたそうだ。

最終的に、彼女の息子は法廷で罪を認めた。

ほぼ即日で釈放となった。

果実は自主的に落ちれば、仲間たちに慕われて王となる。先のことはわからない。が、彼は自ら落ちることを選択した。
果実は自主的に落ちれば、仲間たちに慕われて王となる。先のことはわからない。が、彼は自ら落ちることを選択した。

彼は現在、地元を離れ、飲食店を経営できるようになるため、東京で働いて修行している。

上下関係がある厳しい職場だ。

だが彼は弱音を吐くこともなく、頑張っている。

彼の仲間たちがその後どうなったかは私は知らない。

しかし、人生は長い。

この事件でかかわった仲間が、いつの日か重要な場面で彼の力になることだってあるかもしれない。

本当に、人生などなにが良くて、なにが悪いか、私はこの年齢まで生きてきたけれど、未だにわからない。

彼がいい人生を自分で切り開いていくことを願う。

未確定の未来

こういう実例を考えると、私は未来というのは不確定要素が多いと思っている。

易経の記述は、基本的に、無条件でいい未来を伝えるものは非常に少ない。

ほとんどの記述は、今回のように二つの可能性を示すか、あるいは幸運を意味するとしても条件が付随する。

つまり、易経の作者は、未来が決定されているとは考えていない。

未来は、私たち自身が作り出すものなのだ、と彼は確信しているのだと思う。

そういう意味では、易経は安定した未来を保証するようなものではない。

しかし、易経は現状と見通しを暗示する。

未来は、示されていても確定はしていない。現実を受け入れて行動する時、未来はいい方向に動く。
未来は、示されていても確定はしていない。現実を受け入れて行動する時、未来はいい方向に動く。

ちなみに、ご自分で易経占いを行う場合は、あなたは出てきた結果について、客観的に見るべきである。

あなたにはあなたの理想や希望する方向性があると思う。

しかし、現実はあなたの理想の通りには行かないことの方が多い。

易経占いを行うと、想定外の見通しが示されることはよくある。

そしてそれはあなたの理想とは異なるかもしれない。

だが、思いもよらぬ未来は、面白いではないか。

予想もつかぬ事態から、私たちは世界の秘密を知る。

先入観をまずは捨てよう。

易経占いの結果を判断するにあたっても、一番大事なことは先入観を持たないことである。

そうでなければ、易経占いやタロットカード占いは、読み取れない。


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